「あーあ、何もしなくてもお金が手にはいんないかなー。」
いきなり呟いたこの男はどこぞの自宅警備員。
つーかものすごくさっくり言って親元暮らしのごくつぶし。
今日も今日とてなにもせずに部屋の外の親に暴言吐いて暮らしている。
「ゲームもあきたよなー。なんか遊ぶものは…あ、ナツカシー。トランプまだ持ってたんだ俺。」
と結構長い時間自分の机をがさごそしていたのだが、その時間は考慮に入れないで。
「じゃあこれで…ずっと俺のターン、ドロー!」
と言って引いたカードはなんとJOKER。
「うわ縁起わる」
といい終わる前に、そのトランプが音を立てて爆発した。
そこには謎の男がいた。
「どもー。さーて私の正体はなんでしょ~。」
ひょうひょうとした口調だが、目の前の男の正体の推測はつく。
古今東西の物語でもよくある物語の流れ。
出会って4秒で結論が出た。
あ、やばい、悪魔だこいつ。
「あ…あの…なんで俺のところに…?」
「いやー自分なりのゲート強制起動キーワード決めててね、人間がそれ言ったら飛んでいけるようにしたのよ。暇なんで。」
「キーワード…ですか…」
「そそ。今回は1:『ずっと俺のターンと言ってトランプをめくる』、2:『JOKERをめくる』、これで私の登場。」
さらに悪魔が言葉を続ける。
「では聞きましょう、あなたは何が欲しいですか?」
「…まったく、品がないお願いですね。まあ、いいでしょう。」
そこでその悪魔がカード1枚A4サイズという、ぱっと見てノートを見間違うようなトランプを出す。
「さて、ここから1枚引いてみてください。箱の一番上のカードです。」
言われるがままに引いたカードはスペードの9だった。
「おめでとうございますー。これで2円獲得しましたー。」
「…は?」
悪魔はその引いたトランプを一気に燃やし尽くした。
そのはずなのになぜか熱気を一切感じない炎に恐怖したが、
なぜかその自宅警備員は安心した。
これは、もしかしたら本当に5000兆円手に入るぞ、と。
「このトランプをめくりに一日に一度伺います。そのときにJOKERが出なければどんどん倍になっていきます。
2円が4円、4円が8円、8円が16円と言うように。そしてJOKERが出たら1減らします。そしてめくったカードはその場で焼却。
これで最後までトランプを引いたときに5000兆円に達してたら、5000兆円差し上げましょう。やりますか?」
「やる!」
「ではまた明日。お目にかかりましょう。一日一枚減って行きますので、まあ2ヶ月はかかりますねぇ。
あ、このトランプは置いていきますのでご自由にどうぞ。」
悪魔のゲームが始まった、と言うことにこの自宅警備員が気づくのは果たしていつのことだろうか。
「それにしてもでかいトランプだよなー。こんなもの売ってないよなー。」
悪魔がおいていったトランプを見てしみじみ思う。
カードの内訳をおそるおそる見ると、52枚のトランプにJOKERが1枚入っていた。
1日目でスペードの9を消滅させているため間違いはない。
(でもあの悪魔、トランプを引くときにシャッフルしなかったよな…)
と悪いことを思い、実行。JOKERを一番下にセットして夜を待つ。
2日目の夜、その悪魔は約束どおりに来た。
「どもー。じゃあドローしましょうか。」
そして引いたカードはスペードの4。シャッフルもしなければ悪魔が気づいた様子もない。
「おめでとうございますー。これで4円獲得しましたー。」
(よっし…!)
「ではまた明日お会いいたしましょー。」
確信した。勝てる。取れる。5000兆円手に入る。
その後も順当にJOKERを一番下に送りカードをめくる。そうして10日が経って
「おめでとうございますー。これで1024円獲得しましたー。」
となり何もなく悪魔は帰る。そして20日目には
「おめでとうございますー。これで1048576円獲得しましたー。いよいよ100万円ですねー。」
「あの、これで終わりってことには」
「ないですねー。だってあなた言ったじゃないですか。『5000兆円ほしい』って。だからゴールはそこですよー。」
30日目。ここでとんでもないことが起こる。
「おめでとうございますー。これで10億円とちょっと獲得しましたー。っと実は忘れていたことがありまして。」
「あ?」
「このトランプ、白紙のカードとJOKERがもう1枚あったので追加させていただきますねー。」
その後悪魔に小学生じみた罵声が飛ぶが元々悪魔そういうものは攻撃にならない。
むしろ「年の割りに安い罵倒しか出来ませんか」と心の中で冷ややかに笑う。
「もう半分は超えましたよー。がんばれがんばれ♪」
白紙は増えた。だがJOKERも増えた。この戦い、勝利はあるか。
まあ、JOKERを一番下にし続ければいい話だが。
「それにしてもあの悪魔なんてことしやがる…悪魔マジ悪魔」
とぶつくさ言いながらトランプ内容を確認する。確かにJOKERがカラーのものに加え白黒のものが追加され
さらに白紙の、本当に何にも書いていないカードが増やされていた。
「この白紙のカード、白紙のままで引いたらJOKER扱いか…?いや、それだけはいやだ!」
ということで白紙のカードにとあるカードを書き込む。そして31日目。
「どもー。それじゃーめくりましょー。」
毎日ちゃんとJOKERは回避している。はずれはない。
「おめでとうございますー。これで20億円とちょっと獲得しましたー。」
「あ、あのさ、ひとつ聞きたいんだけど」
「何です?」
「あの白紙のカードって、白紙だったらどうなるんだ?」
「ああ、私自身でJOKER書き写してドッカーン。ですよ。」
「あ…!そう…そうなのね…!はい…!!」
「ではまた明日。がんばってねー。」
悪魔が去った後、心のそこから胸をなでおろす。
(よかった…書いておいてよかった…!)
そして37日目、それは訪れた。
「どもー。それじゃーめくりましょー。」
そこでひいたカードは手書きのスペードの9。
「おかしいですねーたしか初日に引いてたはずなんですけど…」
「でもJOKERじゃないからOK!?」
数秒の沈黙。もしOKじゃなければ相手は悪魔。
一発ゲームオーバーならまだしも
自分の命までゲームオーバーになりかねない。
果たして判定は…
「OKです~!これで1374億とちょっとになりました~!」
「よっしゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ではまた明日~。」
歓喜に叫ぶとともに、もうお金がすごいことになっていることに気がつく。
叫ぶのはいつものことなので、もう親はあきれて何も言わなくなっている。
さらに40日目、ここで大きな変化が訪れる。
「JOKER回避、クリア~!さてこれでついに1兆円超えたわけですが…」
そこでつばを飲む自宅警備員。
「JOKER2枚追加してここまで来ました!ということで特別ボーナス!5000兆円をゴールにしましたが、
そこまでに達しなくても最終結果の金額を差し上げましょう!!」
「ふぉおおおおお!!!」
つまりこのまま倍に倍になって、JOKER引いて1下がってもその分の金は獲得できる。
とんでもないルール変更が最後に現れた。増える。金が1日1兆増えていく。
その事実が、この男を明確に白痴にさせていた。
41日目。
「どーもー。獲得金額がわかるように大き目の電卓もってきましたー。」
そしてそれは繰り返される。
「おめでとうございますー。では獲得金額は…こちら!」
2^41=2兆1990億2325万(以下略)
「んぎょおおおお!!」
42日目。
「おめでとうございますー。では獲得金額は…こちら!」
2^42=4兆3980億(以下略)
「はぴぃぃぃぃい!!!」
その後一週間前後、部屋から変な雄たけびが聞こえ続けたというが、
聞くに堪えないものだったとのことで割愛させていただく。
50日目。
「おめでとうございますー。では獲得金額は…こちら!」
2^50=1125兆8999億(以下略)
「ばぶぅぅぅぅぅう!」
「ついに1000兆に到達しましたねー。ではまた明日。」
51日目。
「おめでとうございますー。では獲得金額は…こちら!」
2^51=2251兆7993億(以下略)
「あばばばばばばばば」
52日目。
「おめでとうございますー。では獲得金額は…こちら!」
2^52=4503兆5996億(以下略)
「はぶー!はぶー!」
「どうです見てくださいよ。貴方が言っていた5000兆円、ホントに目の前になってきましたよ~。」
「金額はカードを全部引ききったら差し上げますよ~ではまた明日。」
そして53日目。
「どーもー。では引いていただきましょー。」
「あははははカード…カード…おかね…すごいおかね…」
ここでついにJOKERが出てしまった。
「!!!」
「残念でした~。では1減らしましょ~。」
(待て、よく考えろ俺、たとえ1減っても前日までが2251兆と言ってた!結果が獲得できるから
大金持ちは間違いない)
JOKERを引いたショックで一気に頭が冴えた自宅警備員。
そこで出た大き目の計算機に書かれた数字は
(2-1)^52=1(円)
1は何乗しても1である。 時が、止まった。
「ではまた明日~。」
よく考えたら、シャッフルもしていなかった。
山札の枚数も数えていなかった。
というより、今日の段階で、残った2枚の山札は、両方ともJOKERだ、と気がついたのは
このカードを引いて1時間、悪魔はとっくにいなくなっていた頃だった。
そして54日目。
「どーもー。では引いていただきましょー。」
残ったカード1枚は、白黒のJOKERただ1枚。
そして結果、獲得できる金額は…
(1-1)^52=0(円)
0は 何乗しても…以下省略。
\゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!!!!!!/
↑半径数百メートルに渡って聞こえたらしき男の叫び声
近隣に響き渡るような大声を上げて悪魔の目の前でその男は色んなものをもらした。
「なんです。さすがに臭いじゃないですか。」
「てめーいつから仕込んでた!いつから!」
「はじめっからに決まってるでしょ。というかトランプ引いた枚数も解らないんですか?」
「わかるわけねーだろそんなもの(聞くに堪えない罵詈雑言)」
「わかるでしょ。トランプなんですよ?52枚にJOKER1枚、それに途中でJOKER1枚と白紙1枚追加して
全部で55枚。JOKERの枚数もわかったでしょうに。」
「それになんでそこ引くんだよぉぉぉぉ!!!」
「言ったじゃないですか、『JOKERが出なければどんどん倍になっていきます。JOKERが出たら1減らします』って。
どこを1減らそうが私の勝手ですよー。それでは、また明日。ゲームは2ヶ月続くって言ったので。ではまた明日。」
その後、その男はいろいろ掃除する羽目になったが、さすがに下世話が過ぎるだろう。
そして55日目。
「どもー。もう引くカード、ありませんよねー。」
その悪魔は続けざまにこういった。まるでお仕事のように。
「魂、いただきにまいりましたー。」
-次のニュースです。○○県○▽市で男性が死亡した模様です。
死亡したのは無職の□□□□さん31歳、
近隣の住民によりますと死亡する1、2週間前から自室にて奇声を発していたと言われており-
「…ここどこ。」
「ああ、地獄の入り口というか、まあ三途の川の上あたりってところですねー。」
小さな小船の上に、元自宅警備員とその悪魔はいた。
「え、ちょっと待って!」
「いやー苦労しましたよー。死んでまさか一銭も持ってないんですもの。」
「え…本当に地獄なの…?」
「と言いたいところなんですけど、六文銭持ってないんですもの。地獄も渡れません。ということで
この船と一緒に三途の川に沈んでいただきます。」
「…は?」
「ではごきげんよう。ちなみに三途の川に落ちた人間のことはよく知られてませんので
どこかであったらレポートくださいねー。」
そしてその悪魔はどこかに消えた。
乗った船は、まさに泥。
数時間も持たずに船は川に沈んだ。
そして三途の川に落ちたその男は質量のない餓鬼のようなものに引きずり込まれ
食い尽くされた挙句に川底に沈められ、その男がいたという痕跡は塵の単位でなくなっていたそうです。
「まあ、5000兆円とか望んでたら、六文銭なんて知らないでしょうからね。」
めでたしめでたし。